東芝の不適切会計がさまざま波紋を広げています。いまだ全容が見えない状況ですが、不適切会計の損失の規模は500億円から数千億円に拡大する可能性があると報道されています。

今回のコラムでは、報道から得られた現時点の情報だけをもとに、この問題の本質に切り込んでいきたいと思います。ここまで報道された内容から、私が最も注目したのは、証券取引等監視委員会への通報が発端だったということです。すなわち、会社への内部通報ではなく、会社外部へ通報されてしまったということです。上場企業は必ず内部通報制度を設けています。東芝ではこの制度が十分に機能していなかった、もしくは形骸化していた可能性があります。社内の不祥事が外部に通報されたことで発覚するという事態は会社にとって最悪の状況です。

内部通報制度が機能しなかった原因としては、次の様な要因が考えられます。

①通報者は会社に内部通報すると不利な取扱い(部署移動、昇進への影響など)を受けるかもしれないという疑念を持っていたため、内部通報できなかった。

②不適切な会計処理は会社ぐるみの行為なので、会社に内部通報しても問題解決にはならないと考え、外部に通報することを選択した。

通報者が内部通報制度に対してこのような疑念を抱いていた場合には、決して会社に通報することはありません。通報しても無駄なだけでなく、自分自身を不利な状況に追い込む危険性さえあるからです。

さて、現在、第3者委員会の調査が行われており、7月中旬にも結果報告がなされることから、事実関係はそこである程度明らかになり、会社や関係者への責任追及も始まるでしょう。原因の勝手な推測はやめることにして、この東芝問題から得られる重要な教訓を述べておきたいと思います。それは、外部に通報されてしまうと会社は身動きが取れなくなってしまうということです。さまざま人たちが押し寄せてきて、報告しろとまくし立てます。すなわち、会社が十分な時間をかけて主導権をとって調査や改革ができなくなってしまうのです。

不正行為はどんなに内部統制を強化してもなくなることはありません。人のすべての行為を統制することは不可能だからです。だからこそ、起こってしまった不正行為を早期に発見することが重要なのです。そのために重要な仕組みが内部通報制度です。公認不正検査士協会の2014年度版報告書(職業上の不正と濫用に関する国民への報告書:全世界の企業不正の特質を提示している)によると、不正行為発見ルートの圧倒的な第1位は内部通報です(42.2%を占める。2番目は内部監査で14.1%。ちなみに外部監査は3%)。内部通報制度を有効に機能させることは極めて重要な不正対策なのです。そして、最悪なのは会社に内部通報せずに外部(公的機関、マスコミなど)に通報されてしまうことです。内部通報制度を有効に機能させるための仕掛けを「對馬の助言」に記載しましたので、参考にしていただけたらと思います。

さあ、東芝問題を教訓にして、自身の会社の内部通報制度を早急に点検してみてはどうでしょうか。

(なお、コラムに記載した内容は、あくまでも私見であり、一般的な見解と異なる可能性があることをご了承願います)