我が国を代表するグローバル企業で発生した「品質偽装」という企業不正が大きな波紋を広げています。

今回は、この「品質偽装」という企業不正を取り上げ、その根本的な原因を解き明かしたいと思います。

実は「品質偽装」が起こる原因は、「会計不正」が起こる原因と同じです。それは両方とも「3つの不正トラップ」に起因しているからです。私はこれを「粉飾・偽装の不正トラップ(機会・期待の丸投げ・正当化)」と呼んでおり、具体的には次の3つを指します。

■不正トラップ1:[不正会計・品質偽装を実行する機会がある]
会計不正:会計の仕組みを熟知し、会計記録とエビデンスを自由に操作できる
品質偽装:業務プロセスに精通しており、データの改ざん等を部外者に知られずに実行できる
(特徴)
①部門、部署内の業務の実態は部外者にはわからないと認識している。誰からもチェックを受けない(誰にも見られない)業務はブラックボックスになる。
②実態がブラックボックスだと、形だけを整えておけば良いという形式主義がまかり通り、会計不正・品質偽装の入り込む余地が生まれる。
③数字やデータを操作しても証跡が残らないことを熟知していて、形式的なエビデンスをそろえられる環境にある。

■不正トラップ2:[期待の丸投げ]
押し付けられた期待。現実的でない期待を一方的に押し付けられる。手段を問わない期待の丸投げ状態
(特徴)
①具体的な手法・手段を示さずに、現実的でない利益目標の達成を現場に強いる。
②終身雇用のもと「会社のため=自分のため」という共通認識が生まれ、忖度(そんたく)の作用が働く。すなわち、明確に命令しなくても、現場が忖度して勝手に動く。
③経営者、上司の要求を満たすこと(期待に応えること)に最大の関心を払う。
④上司と部下で、これぐらいなら問題ないだろうという暗黙の了解があるために発覚しにくい。
⑤不正の発覚を困難にする改ざんや偽造などの偽装工作は、会社の期待に応えるための単なる手段の一つに過ぎないと考えるようになる。

■不正トラップ3:[自分の行為を正当化する]
良心の呵責を乗り越える
(特徴)
①売上や経費の操作、品質を偽装した製品出荷などは一時的な処置で、いずれ正常な状態に戻すから大した問題ではないという勝手な思い込み、先入観がある。
②数字やデータだけの操作で完了し、実態には何ら手を加えない(横領などと違い、会社の資産が減るわけではない)ため、罪の意識が低い。
③会社のための行為であり、自分の懐を増やすわけではないと言い聞かせ、良心の呵責を乗り越える。

(注)横領のような個人による不正との大きな違いは「不正トラップ2」にある。横領などの個人不正における「不正トラップ2」は「信頼の丸投げ:一方的、全面的な信頼を寄せる」である。


この3
つの不正トラップが揃うと、会計不正・品質偽装の起こる危険性は極めて高くなります。よって、会計不正・品質偽装を防止するためには、この不正トラップを防止しなければなりません。そして、防止策を考える上で重要なポイントは、3つの不正トラップを同時に防止する必要があるということです。一つだけの防止を狙って、どれだけコストをかけても、リスクをゼロにはできません。それぞれ8割を達成できるレベルを目指すことが現実的かつ効果的です。

さて、それではどうすれば不正トラップを防止できるのでしょうか?そのために最も重要な概念を以下で簡潔に説明します。

粉飾・偽装の不正トラップを防止するためのフレームワークとして、次の3つのアプローチが極めて重要になります。

①企業理念アプローチ・・・不正トラップの「正当化」防止に有効
②競争環境アプローチ・・・不正トラップの「期待の丸投げ」防止に有効
③見られる化アプローチ・・・不正トラップの「機会」防止に有効

ここでの詳しい説明は省きますが[拙著:「たった1人! たった3日間で!! 会社不正の9割を発見する方法」(清文社)で詳細を解説]、それぞれのアプローチにはさまざまな具体的施策が用意されています。防止策の構築に当たっては絵にかいた餅にならないように、各企業の業種・規模などの実態に応じて最適な施策を選択適用する必要があります。

あなたの会社には品質偽装や会計不正を防止する仕組みがありますか?それは本当に有効に機能していますか?

(なお、コラムに記載した内容は、あくまでも私見であり、一般的な見解と異なる可能性があることをご了承願います)